きのうよりやせたね

きのうよりやせたね。

光は痛いくらいに鋭くて
細胞の一つひとつを
輝くしずくで満たしていく。

薄緑色のぶどうのふさのように
生命が蘇る。

繰り返される愚行に蒼ざめた月

殺戮の歴史に疲れ果てた

血を見るのは明らかに
女たちではなく男たちだ。

やせたね、きのうよりもずっと
消えてしまいそうなほどに。

夜半を過ぎても
見つけられなかったから
明け方近くまで眠らずに
待っていたよ。

白みかけた空にか細い光
明けの明星よりも明るく
金色に輝いて「生きよ」という
朝露をいだたく夏草のように。

たとえその根元に
腐敗した土があろうとも。

命の息吹は腐敗を浄化し
緑の大地に連なる。

  ☆

今宵もはや
その姿は見えない。

蘇るために姿を隠す

いつかまた蘇るだろうか。

生命を与え
生命を削り
生命をはぐくむ。

月は女のように蘇る
女は月のように蘇る
はてしなく蘇る
まろやかに。

生命をはぐくむために。

月2 






















堕天使の憂鬱

生まれる前の子どもは

空の上から

誰のところに行こうかと

母になる人をみつけ

その人のもとに行くのだという

美しいおとぎばなし。

善なる人々はそれを

ほんとうのことだと信じているという。

母としたら自分の子どもが

空のかなたからこの母を見つけて

母のもとに来てくれたのだとしたら

胸が痛くなるほどにうれしく

せつなくなるほどにいとおしかろう。

      *

それでは、

幼いわが子を叩いて踏みつけ、

煮えた湯をかけ、放置するような

母とは何か?

善なる人々は言う。

子どもはどんな母でも愛している

いたらない母をたちなおらせたいと

思ってやってくる

それを母が知らないだけだと。

この美しい物語が

ほんとうのことだというなら

それは涙するほどに感動的かもしれない。

    *

ところで、

いったいわたしは誰か

母に虐待された覚えはないが

母のもとに生まれてこようと

選んだ覚えもない。

わたしはただ見ていた

空のかなたから

風になびく川原の草や花を

無数の石の上を流れる水を

わたしは魅せられた

この星の自然の息吹に

そのとたん

わたしは落ちた。

天から落ちて人の胎に入った

そして、人から生まれ

わたしは堕ちた。

これは何かの間違い

母の胎から生まれたわたしは

何かの間違い。

切り離されてここにいる

もといたところから

切り離されて

ここにいる

憂鬱
















夏のメランコリー

昼の日差しをたっぷり吸ったアスファルトから

立ち上る熱気のかすかに生ごみの匂いのする

人気の少ない休日の商店街。

花を買おうと思ってはみたものの

すでに店を閉めてしまった花屋の店先には

砂まじりの埃が漂う灰色の黄昏が

わだかまっているだけ。

暗くなっていく乾いた道筋のかなたから

祭りの準備に集まる人々の打つ太鼓の音が

遠雷のように聞こえてくる。

生きるって、こんなに寂しかったっけ。












テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

夏の記憶


ありもしなかった日の

記憶にいざなわれて、

淡い郷愁にひたる夏

低くクラッシックの流れる喫茶店の

かすかに夕日の匂いのする

窓際の小さな席で

古書店で買ってきた難解な

哲学の本を広げている。

本の中の思想は苦々しく

ペシミスティックな様相を帯び

胃のあたりから体が二つ折れになって

ふさぎ込んでいきそうな気怠さ。

二杯目のコーヒーが苦さを

増してきたように思えて

白い砂糖を加える

それはなにか毒のような気がして

これで終わるのかと覚悟を決めるが

何も起こりはしない。

わたしは哲学書を閉じて

一緒に買ってきた別の本を開く。

時空を超えた物語が展開する

サイエンスフィクション、

かつてその世界を体験したことがあるような

既読感というよりは、既視感。

宇宙というイメージが

頭の中に涼やかな風を運んできて

コーヒーカップの横に置かれた

ウオーターグラスのなかで

まろやかに溶ける氷の音。

私は宇宙の彼方を旅しながら

「いまここ」を離れて

過去か未来か、永遠のかなたに浮遊する。

それはありもしなかった記憶ではなく

確かにありえたあの日の記憶。

ずっと前からそこにいた

ひとりでに卵からかえった鳥のように

自分の殻だけが割れ残る

誰もいない巣の中で

このままぬくぬくと過ごすことができれば

存在というものはただの夢見。

あの難解な哲学書を書こうと試みたのは

わたしではなかったのか。

自分の思考についてゆけず

途中で投げ出し

この世界を空想で彩った

奇妙なサイエンスフィクション。

かつてあった日の記憶は

ありもしなかったあの日の記憶と

寸分 違うこともない。

夏よ、終われ。

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5月のゆううつ サトゥリヌスの季節

ジャスミンの香りを漂わせながら

サトゥリヌスの季節がやってきた。

空には鉛色の雲が広がり

胸の奥まで深く垂れ込める。

遠くで誰かがトランペットを吹き鳴らす

もうすぐ 世界の終りがやってくる。

季節は巡り、巡り巡って

ジャスミンの香りを漂わせながら

今年もサトゥリヌスの季節がやってきた。

垂れ込める雲の下から

泥のような後悔が滴り落ち

体内のあらゆる臓器を黒く染める。

ジャスミンの香りを漂わせながら

サトゥリヌスの季節がやってきた。

もうすぐ 世界の終りがやってくる。

「世界とは、私の世界のことである」

「世界の終わりとは、私の世界の終わりである」

いかなる論理によっても克服できぬ

サトゥリヌスの季節がやってきた。

トランペットにまじってかすかな雷鳴が聞こえる。

垂れ込める雲はやがてその重圧に耐えかねて

生暖かい雨となって地上に落ちる

ジャスミンの白い花弁を赤茶けたぼろきれに変えながら。

遠のく雷鳴とともにサトゥリヌスは去っていく

やがてトランペットの音も消える。

世界の終りはどこへ行ったのか

底知れぬゆううつだけがあとに残った。

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Author:majikanakajima
やっとみつけた本当のわたし。自分探しはもうおしまい。ずっとまえからここにいる。わたしの名はメランコリー。

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